風の吹きしく

日記とか、考えたこととかをばらばらと。

レーエンデ国物語の感想

ずっと気になりつつも手に取ってなかったのだけど、この前パーッと気分を変えたくて一巻を買って読む。

一気に読んでしまって、平日に我慢を重ねて最後の日の夜に書店にダッシュして二巻、三巻を入手。

面白くて夢中になって、一気に読みました。

一巻の印象は、幻想的なレーエンデの森、伝説と権謀術数、少女と青年の切ない恋と自由を求め道を切り開く勇気、といったところ。

以下、三巻目までのネタバレもありの感想です。わーっと書いたので丁寧ではないですが、どうしても吐き出したくて。

ネタバレ嫌な方は読まないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一巻

・幻想的なレーエンデの森、古代樹に住まう人々と満月の夜の幻の海、英雄の父に連れられた少女が弓使いの青年に出会い、本当に自分が望むものは何かを考え始める、というザ・ファンタジーな導入にワクワク。

・風景の描写がとにかく綺麗。歌う木、クラングや氷雪花、美しい自然の中で季節が移ろい、ユリアとトリスタンの間の気持ちも少しづつ変化していく。

・新しい交易路を探す中で怪しい密輸団とやりあったりという冒険要素もたっぷり。

夏至祭でトリスタンが銀呪病であることがユリアにバレる。満月の夜にトリスタンの母に家から締め出されたせいでかかったらしい。トリスタンが7歳の時に母は軍務に復帰したきり戻らなかったらしいので、幻の海に飲まれたのは7歳以前、銀呪病を発症したのはおそらく21才前後。

・ユリアとトリスタンは合えない時間も多いまま、新しい交易路の工事も進み、トリスタンの銀呪病も進行していく。とうとうトリスタンが倒れ、エルウィンに戻ることに。心を決めて妻にしてくれと言うユリアに、死の恐怖から逃れるためにあなたに慰めを求める浅ましく意地汚い人間になりたくないと拒絶される。トリスタンがユリアの笑顔が一番のご馳走だと言ったから、笑っていよう、泣くのは彼が森に還ってからと決意するユリア。ここまでは色んな出来事がありつつも平穏だったな。。。

・聖イジョルニ歴五四一年七月十五日、ユリアとトリスタンが暮らすエルウィンが何者かに襲撃され、敵をひきつけようとしたユリアが森に迷い込み、銀呪病の赤ちゃんを抱く。しかし一夜明けると赤子の姿はなかった。そしてどうやらユリアはその赤子を妊娠しているようだった。ウル族の伝承で満月の夜に天満月の乙女が悪魔の子を受胎するとあるため、ウル族に妊娠のことを知られてはいけない。

・ユリアの妊娠がバレる、ユリアがトリスタンが父だと嘘を言う、プリシラが銀呪病にかかると子をなせなくなるからトリスタンが父はありえないと言う、のくだりで頭を抱えちゃった。

確かに、トリスタンが子を成せない、彼にそれを求めるなという発言は何回かあったんですよね。でもトリスタンの生い立ちや信条にかかる理由で子をなせないのだと思ってました。これはミスリード?に引っかかったな〜。でも確かに、この状況なら自分の信条がどうであれトリスタンならユリアを守るため自分が父親って言うよね。物理的に無理なのか。。。

・ユリアとお腹の子を守るために露悪的な言葉を吐くトリスタン。ユリアもトリスタンもヘクトルもつらいだろうな。少し前までの出来事が平穏に思えるほど急転直下の展開がつらい。

・トリスタンが竜の首でご飯係してるの良かった。ロマーノ・ダールに「ユリアに手を出して、団長に殴り倒されたんだって?」って言われるの、ちょっと笑っちゃったよ。そうだったらどんなにか良かったか。

・色々ぼろぼろだし絶望的な状況だけど、とにかくユリアとトリスタンがもう一度会えてよかった……!!

・トリスタン、ここで死ぬのか……。そして前を向いて止まらずに駆け抜け続けるユリア。涙が止まらない。

・この後、ベロア・マルモアの息子と結婚して四人の子をうみ、八十二まで生きたユリア。短すぎるページであっという間にユリアの残りの一生が綴られてて、その内容と記述の短さに頭が追いつかない。一生をエーレンデの解放に捧げて、レーエンデに戻ることはなくて、え?この後結婚して子供うんだの?というかこの2人の物語はこの巻でおしまいなの?!

数日経って気持ちの整理つきました。

ユリアは、トリスタンとの約束を果たそうと、一生走り続けたんだろうな。

これはユリアとトリスタンが最後まで同士だったからこその結末なんだろう。もし別れる時に恋人同士だったら、ユリアは他の人とは結婚しなかったんじゃないだろうか。トリスタンとの「振り返るな、立ち止まるな前だけを見て走り抜け」という約束を果たそうとしたからこそ、結婚し子を生むという選択をしたんじゃないかな。

・もう一度読み返そうと冒頭の泡虫のシーンで、これトリスタンがユリアにおかえりって言ってキスしてるんじゃん?!と気づく。そっか。トリスタンおかえりって言えたんだね。でもこんな悲しいおかえりってある?



 

 

二巻

・政敵に家族を殺され屋敷を焼かれて逃げだした少年と、それを拾った怪力少女のボーイミーツガールから始まる話で、カボチャ割り大会で優勝する少女とか、少年が求婚して十八になっても気持ちが変わらなかったら結婚しようとか約束してましたよね。

それがどうして、物語の最後には少女は革命軍のリーダーとして生きたまま一か月間磔にされて死んでいき、少年は残虐王として恐れられる法皇帝となり、後世にも忌み嫌われる孤独な為政者として五十八歳で亡くなりましたって結末になるんですか。。。

なんでこうなった。神はいないのか。

・戦闘や虐殺のシーンも多く、全体的につらい描写が多い。ダール村が襲われたシーンとか。ブラスの娘の話とか、個人的に苦しかったです。

・ルーチェは一途で賢くてかわいいし、テッサは明るくてたくましくて頼もしくて、本当に太陽です。

バルナバス砦の指揮官のカール・シュライヴァはユリアの子孫だよね。ユリアが刻んだという「レーエンデに自由を」の一文に、彼女の思いが後世まで残っているんだなと思った。

・西の森のエルウィンは、一巻のエルウィンとは場所も違うけど、ホルトとリリスの子孫たちだったりするのかな?ゾーイの娘のイルザが月光石の首飾りつけてるし。おそらくこれユリアがリリスに預けた首飾りだよね。

・銀の海の描写が、一巻とは違うのでは?と感じた。一巻では幻想的なイメージがあったけど、二巻では恐ろしい、恐怖の対象という感じ。

一巻ではユリアは銀の海が美しくて誘い出されそう、と感じているけど、二巻でルーチェは銀の海を見て恐ろしい、こんな中で城を抜け出そうとした兄はどんなにその境遇が嫌だったのだろう、と思ってるし。

神の御子が生まれたときに幻魚たちが実体をもちはじめたので、その時から銀の海の性質が変わったのかな。銀の海がレーニエ湖周辺だけに現れるようになったのも、神の御子を迎えに行くためなのかもしれない。

・革命が成功しかけたかに思えた後の、蜂起した民による行き過ぎた虐殺や民族間での諍いが醜くも痛々しく、そして現実にもありそうだなあと思う。私だってもしティコ族だったら「ウル族はずっと森に隠れて税金納めてなかったんだから滞納分支払うことになっていい気味。自分たちは今まで頑張って納めてきたから税金半額だーやったー!」って思っちゃいそう。

・ルーチェが後世に「残酷王」って呼ばれることがプロローグで明かされてたけど、私は勝手に帝国側から見た呼称だと思ってたんですよ。ユリアだって、帝国から「毒婦」って呼ばれてたじゃん。それと同じことで、ルーチェはレーエンデから抜け出してその計略で帝国軍を苦しめまくって帝国側から「残酷王」って呼ばれるんだと思ってたんですよ……。だからこの結末にはそっちかぁ〜!!!とショック。ルーチェ、おまえはそうはならないと思ってたのに。でもそれだけテッサのことが好きだったんだろうな。そして気持ちをひとつにしないレーエンデの民に絶望したんだろうな。

「もっと絶望しろ」の言葉の先には「そして本当の革命を起こせ、かつてテッサが起こそうとした革命を」が続くんだろうか。せめて、そうであってほしいと思う。

それとも彼はテッサが死んだことで、完全に心を壊してしまったのだろうか。そうであっても不思議ではない。

・建国の始祖ライヒ・イジョルニの目的はなんなんだろうね?神の御子を誕生させるところまでは予言していて、かつ彼が「かくあれかし」と選択した未来だけれど、それ以降のことは何も予言してないみたいだし。

彼が掲げたという旗の言葉「海より来たりて海に帰す」はどういう意味だろうか。イジョルニはレーニエ湖で遭難して創造神と出会い、未来視の力を手に入れたというから、それが「海より来りて」なのかな。そして神の子を誕生させるためにレーエンデを守り、神の子を始原の海に還すのが「海に帰す」ということだろうか。

 

 

 

 

 

三巻目

・時代が下り、鉄道も通ってさらに変わってしまったレーエンデの風景が悲しい。ぎりぎりエルウィンの辺りだけ、かつての古代樹の森が残ってそう。

・テッサの名前も性別も、何をしたかも語り継がれていないという事実がつらい。「彼」じゃない「彼女」だよ。歴史を正しく教えない、無いものにする、というのは明確にその民族に対する迫害だと思った。ときおり「歴史なんて学んで何になる?」「古典勉強して役に立つ?」という意見があるけれど、それは自分たちの歴史や文化を無き者にする行為でもあるんじゃないかなあ、と思ったり。

・マレナ、月光石の首飾り持ってる。

・「まんまるツチイモ」の歌を歌っていたという女の幽霊はテッサだよね。なんでこの二人のもとに現れたのかな?

・レイルに行く途中でアーロウが見た土地の記憶、これ、ユリアとトリスタンじゃない?。初めてあった次の日の朝の会話!!場所も昔のエルウィンがあった場所だしこういう断片だけでもめちゃくちゃ嬉しくなるな。

・ラウド渓谷路のシレン・ドゥ・エルウィンも月光石の首飾り下げてる。ユリアの月光石持ってるのはマレナかと思ったけど、シレンかな。あと渓谷路の追いかけてくる影、二巻で噂話でちょろっとされてたやつ?!三巻ではレーエンデっぽい不思議なものがほとんど出てこなくなるから、ちょっとびっくり。

・英雄は25歳で死ぬ、という話からひょっとしてトリスタンも25歳で死んでたりするのか?と思って計算してみたけど、おそらく27歳で死んでるので違った。

・ミケーレ・シュティーレはもっと大人物かと思っていたらしょうもない人間すぎた。それとは反対に、ミラベルあんたは本当に天使だよ。劇に対する鑑賞眼も確かだし。

・リーアンとアーロン、最後どうなるかと思ったけど入れ替わるのか。リーアンは傍若無人で弟へのわかりくい愛情を持ってる人物だった。

・ルネ・リウッツィが挨拶に来るけど、彼はライヒ・イジョルニの本当の望みを知っているのかな?

・挟み込みのペーパーでユリアとトリスタン、テッサとルーチェのショートストーリーがあったのですがこういうの大好きですもっとください。

 

毎回、次の巻までに百年くらい経過してるけど、次の四巻でも百年経過するらしい。おそらく全五巻と思われるけど、四巻から五巻も百年経過するなら、一巻からは五百年弱経過することになるなあ。なんていう大河物語。

今のところ、どの巻が一番好き?と言われたら一巻か二巻だけど、この物語は巻が進むほど「これはこういうことだったんだ」とか、「あの人がしたことがここで生きてくるんだ」という発見があるし、全体を通して眺めることでさらに深みが増すと思うので、完結が楽しみです。

でも物語としてはなにも始まらないし完全に別の話になっちゃうけど、古代樹の森でユリアとトリスタンの二人にただただ幸せに暮らして欲しい、、、って思うし、毎年カボチャ割り大会で優勝しまくるテッサに求婚するルーチェが結婚してめでたしして欲しい、って思ったりするのでした。